税理士試験 国税徴収法 合格体験記(4) - 理論を定着させる工夫

By | 2013/12/21

 専門学校に通う場合、講師が要求することをすべて確実にこなしていけば、本試験で大きなミスをおかさない限りは合格できるでしょう。これは国税徴収法に限ったことではなく、どの科目にも当てはまることだと思います。
 問題は、講師が要求する課題をすべて消化するのは、時間的にも能力的にけっして簡単なことではないところです。特に税法科目では理論の暗記が大変です。初めて大原のテキストを受け取ったとき、「これを全部暗記できるのか?」と思いました。記憶力は年齢とともに減退していくと言われていることもあり、40歳代半ばの自分にできるのか最初は疑問でした。
 試験が終わった今から振り返ると、(1)ある程度の時間を確保し、(2)やり方を間違えず、(3)集中して取り組めば、けっして難しい作業ではないと思います。そういうわけで、私の工夫の一端を紹介したいと思います。

最初に全体像をつかむ

 意味が分からず、興味のないものを暗記するのは難しい。「理解が重要」と言われますが、その前に国税徴収法の世界を「面白い」と思えるようにすることが重要だと思います。
 そこで私は、大原に通い始めた3~4月に「税大講本」(税務大学校が作った税法のテキスト。PDFファイルがウェブで公開されている。http://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/tyousyu/mokuji.htm)を2回通読して、全体像をつかもうとしました。大原の講座ではいきなり細かい論点に入っていくので、途中で何をやっているのか分からなくなるんですよね。そこで、つねに印刷製本した税大講本をテキストとともに持ち歩くようにしていました。
 また、税大講本は5月の連休中に通読し、直前期にも2回ほど通読しました。通算では6~7回転はしていると思います。最初は通読するのにかなり時間がかかりますが、試験直前はすべての論点が完璧に近い形で頭に入っているので、1時間ちょっとで通読することができました。
 もし国税徴収法の受験を考えている人がいらっしゃれば、税大講本に目を通してみるといいです。何をやるかが具体的に分かると思います。大まかな内容は税大講本の通りですが、講座の中ではこの内容をベースとしてさらに細かいところまで見ていくことになります。

具体的なイメージを持つ

 国税徴収法の難しいのが、「滞納処分」という大多数の人にとってはなじみのない世界の話を扱うところです。所得税や相続税だったらイメージしやすいんですが、滞納処分は税務署の徴収職員が滞納者から税金を取り立てようという話です。たとえ頭では理論の意味を理解できても、それが自分とはまったく関係のない世界の話なので記憶として定着させるのは大変です。具体的なイメージを持って、自分の世界に引き寄せることが必要になってきます。
 滞納処分のイメージを具体化するのに役立つのが「4日でマスター! 徴税実務」という本です。これは地方自治体の徴収部門の人向けに書かれた徴収実務のガイドブックです。ドラマ仕立てで差押から換価、配当、緩和措置まで一通りの手続を解説しています。地方自治体向けの本なので国税徴収法ではなく地方税法の話なんですけど、滞納処分にかかわる部分は国税徴収法をそのままコピーしたようなものなので、ごく一部の例外を除いて国税に置き換えて読むことができます。
 また、NHKのドラマの原作としても知られる「トッカン」は、税務署勤務の国税庁週刊を主人公にすえた小説です。国税徴収の現場をイメージするという点では役に立つかもしれませんが、国税徴収法の勉強に直結するかはちょっと疑問ですね。国税徴収法の内容もちょこっと出てくるんですけど、「それって解釈を間違えてるんじゃない?」というところもあるし。まあ息抜きにはいいかもしれません。

  

 

法規集で書類のフォーマットを確認

 他にもイメージを具体化する方法はいくつもあります。
 たぶん受講生のほとんどは専門学校のテキストしか見ていないと思いますが、法規集にもぜひ目を通したいところです。理論の中にはいろんな書類の名前が出てきます。「差押調書」「捜索調書」「差押通知書」「差押書」「債権差押通知書」「交付要求書」「参加差押書」「配当計算書」など思いつくものを列挙するだけでもかなりの数になります。これらの書式は「国税徴収法施行規則」の中で定められていて、法規集にフォーマットが掲載されています。

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 たとえば、差押通知書に記入する項目としては、滞納国税の税目や納期限、本税・加算税・延滞税などの金額に加えて、差押財産の名称や数量、所在などを記入する欄があります。こういうフォーマットを見ると、「なるほど、こういう書類が滞納者や第三債務者に届くのか」と視覚的なイメージでとらえられます。
 また、私は理論の学習がある程度進んだ5月の連休中に、法規集で国税徴収法の条文を通読してみました。すると条文と理論テキストのズレが分かります。けっこう暗記のしやすさを優先して、条文から省かれている言葉もあるんですよね。こういうのを見ると、暗記でどこまで手を抜いていいのかが感覚として分かります。理論テキストの言い回しを一字一句まで暗記する必要はなく、その趣旨を外さない範囲で言葉を省いたり、覚えやすいように言い回しを変えてもいいわけです。


 

ネットで事例を集める

 これはあまり深入りすると時間の無駄づかいになってしまうのですが、ネットで滞納処分の事例を検索してみることもやってみました。給料を差し押さえられた人のブログ記事とか、ネットで検索するといくらでも出てきます。それを理論テキストと見比べてみると、「ああ、本当に条文通りに税務署は仕事をするんだな」ということが分かって面白いですよ。差押通知書の写真をアップしている人もいたりして実に興味深いです。

換価の理論は現場で確認

 国税徴収法で最大の難関が「換価」の理論です。他の理論に比べるとボリュームが多く、しかも他の理論と違って換価の手続が淡々と続きます。理屈で理解するのではなく、とにかく手続を暗記しなければなりません。
 これもテキスト上ですべてすませようとするからダメなのであって、税務署や国税局で行われている公売を見学してみるといいじゃないかと思います。残念ながら私はタイミングが合わずに公売を見学することはできなかったんですが、国税局に試験案内などの書類を取りに行ったとき、公売関係の資料を一式もらってきました。また、国税局の掲示板に貼りだされている公売広告の写真も撮ってきました。
 まさに理論テキストの通りに公売は進行するようです。資料や写真を見ながら公売の手続を想像してみると、無味乾燥な換価の理論も具体的なイメージと結びつけて覚えることができます。おかげで換価の理論も高い精度で頭に入れることができ、「本試験でぜひ換価の理論が出て欲しい」と思うくらいになりました。

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事例で手続をシミュレーション

 理論が8割方頭に入った直前期にやったのが「一人ロールプレイングゲーム」です。たとえば、「自分が税金を滞納したとして、税務署はどういう手続でどういう措置をとるんだろう。それに対して、自分はどのように対応すれば良いんだろう」と頭の中でシミュレーションしてみるのです。納期限を過ぎて督促状が送られてきて、それを無視して放置すると財産調査がある。その後に差押が行われ、そこで差押書や差押通知書が送られてくる。また、差押を避けるためには緩和措置の申請をしたり、不服申立をするという手もある。このように、いろんな場面を想定して、どういう手続があって、それがどの条文を根拠になされるのかを考えてみるわけです。
 自分が滞納者になるだけではなく、取引先が滞納して自分の債権に対して債権差押通知書が送られてきた場合とか、自分が抵当権を持つ不動産について差押がおこなわれた場合とか、他にも国税徴収官の立場として滞納者の給与を差し押さえる場合とか、いろんなパターンが考えられます。それぞれに付いて、最初から最後まで頭の中でシミュレーションします。
 これって理論の理解度を確認するにはとても有効だと思います。途中で「このケースではどういう手続が必要になるんだっけ」「債権者にはどのタイミングで通知がくるんだっけ」と何度も理論テキストを見直したり、法規集で調べたりすることになります。

民法などの知識で補強する

 余裕があるのであれば、民法や租税法などの入門書を読むと理解が深まると思います。たとえば、差押の理論で「使用収益をすることができる」という言い回しがでてきます。私も意味をよく考えることなく定型文として暗記をしていただけですが、試験終了後に民法の入門書を読んだところ、次のような意味があることが分かりました。
 「所有権」とはどういうものかというと、物について自由に「使用」「収益」「処分」をする権利です。財産が差押されるとその「処分」が禁止されます。しかし、不動産など特定の財産区分においては「処分」はできないけれど、所有権のうち「使用」「収益」の2つは認められます。動産のように減耗するおそれがあるものは「使用」「収益」も認められません。
 たぶん法学部で勉強した経験がある人にとっては、「そんなの常識だろ」というレベルの話かもしれません。きっと「税理士ってそんなことも知らないのか」と思われるかもしれません。代書屋として終わらないためにも法律の知識を身につけなければならないなと思いました。

  

7 thoughts on “税理士試験 国税徴収法 合格体験記(4) - 理論を定着させる工夫

  1. ワタナベ

    国税徴収法についてのブログ、大変興味深く読ませていただきました。税理士試験を目指しているのですが、税法初学者で今からどの科目を選んだらいいのか、とても迷っておりました。こちらの内容を読ませていただいて国税徴収法にしようと思っています。しかし、著者と同じ年代ですが、理論マスターを入手しまして、とても覚える自信がありません。よろしければ、どのように暗記したのか教えて下さい。何度も読んだのでしょうか。それとも書いて暗記したのでしょうか。お忙しいなか恐れおりますが、よろしくお願いします。

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  2. moneylab Post author

    ワタナベさん

    コメントをありがとうございます。

    暗記の方法ですが、基本的には読んで唱えて覚えました。
    手で書いて覚えるのは私には無理です。きっと腱鞘炎になります。
    ただし、直前記に入ってからは記憶の定着具合を確認するため、パソコンに打ち込むことはしました。
    手書きよりは速いし、手に負担もかかりません。

    最初から順に覚えていくのではなく、重要度が高いところから順に覚えていきます。
    大原の理論テキストには重要度別の星印がついているので、
    まずは二つ星を覚え、無印は無視します。
    重要度が低いところにとらわれるより、まずは全体を大まかに頭に入れることが大切だと思います。

    試験勉強をしたのは4カ月くらいで、その間は国税徴収法のテキストとその関連本しか本を読みませんでした。
    何度も繰り返してテキストを見ると、すべてのページが視覚で覚えられます。
    今でも、差押の要件は3-3の左ページの上の方に書いてあった、みたいに思い出すことができます。

    「理論テキストはぜんぶ覚えろ」と言われますが、たぶんすべて覚えている人はほとんどいません。
    きちんと暗記しておけば確実に合格できますので、ぜひ頑張ってください!
    暗記と言っても一字一句をすべて正確に再現する必要はなく、規定の趣旨を外さないようにして、用語の使い方さえ正確であれば、答案には自分の言葉で書いても大丈夫です。

    Reply
  3. ワタナベ

    返信いただき有難うございます。理論暗記でなされたことが、とても明確に伝わりました。お忙しいなか、誠に恐縮ですが、もう一つウェブページを拝見させていただき疑問点がございます。大原などでは、国税徴収法の学習時間は150時間とあります。簿財を勉強した経験を踏まえると、広告に誤りがあると思います。よろしければ、1日何時間くらい勉強されて、だいたい総時間どのくらいの勉強時間になったかを参考までに教えていただけないでしょうか。企業勤務のため、勉強を始める前に参考にさせていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

    Reply
    1. moneylab Post author

      ワタナベさま

      すみません。
      日記とかを付けていなかったので、正確な時間はわかりません。
      3月末から始めて4ヶ月ちょっとの間、一日に3~4時間でしょうか、たぶん。
      風呂に入っている間も頭の中で理論を唱えたりしていました。
      しかし、私は簿記論の方がずっとずっときつかったです(^^;

      大原の学習時間については、税法は理論暗記の時間を含んでいないはずです。
      150時間+理論暗記に要する時間、が学習時間になると思います。

      Reply
  4. アンドレス

    ワタナベ様同様、興味深く読まさせていただきました。
    貴兄のご意見から、来月から大原で受講する手続きをしてきたところです。
    私は理論を暗記するよりかは、滞納(債権回収)における国税の本質を理解できればと考えており、その一環として税理士試験を目標としています。
    まだ、受講もしていない中恐縮ですが、大原のテキストのほかに法規集とか事前に用意したものはありますでしょうか。
    下らない質問で恐縮ですが、よろしくお願いします。

    Reply
    1. moneylab Post author

      アンドレスさま

      コメントをいただき、ありがとうございます。
      私が用意したのは大原の教材の他には「4日でマスター!徴収実務」「税大講本」です。
      法規集は図書館で見ました(国税徴収法の法規集を入れている図書館は少ないかも)。

      合格だけを考えるなら、あまり手を広げるべきではないと思います。
      でも、税の本質をとらえるということであれば、
      民法や民事執行法、行政事件訴訟法などの入門書を読んでおくと、
      税金の特殊性が見えてきて面白いかもしれません。
      木山泰嗣『小説で読む行政事件訴訟法』(法学書院、2010年)は税務訴訟を扱っていて興味深いです。
      ただし、私が民法などに範囲を広げたのは試験が終わった後でして、もう趣味の勉強になっています。
      時間の制約があるならあまり手を広げない方が安全だと思います。

      Reply
      1. アンドレス

        コメントありがとうございました。

        税大講本は、斜め読みの段階ですが、大原のテキストと流れが違いますが、コンパクトにまとめられている感じを受けました。また、「4日でマスター!徴収実務」は購入してみます。

        理論暗記は、ワタナベ様のレスから、一言一句覚えるよりかは、法の趣旨がテキストの赤字の部分かと思いますので、それを問題と体系づけて覚えていこうと思います。

        また、不明な点がありましたら質問をするかもしれませんがよろしくお願いいたします。

        Reply

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